電球の色温度
ろうそくに近い色の電球を使っています。白い光の下では、同じ酒がずっと薄く見える。色は味の一部だと思っています。
カウンターは八席の弧。
その真上の灯りひとつで、酒の色を見ます。
窓のない地下を選んだのは、
夜を自分の手でつくりたかったからです。
窓がないのが、
いちばんの決め手
でした。
01The Beginning
物件を見にきたのは、まだ日の高い時間でした。階段を八段おりて、扉を開けて、真っ暗だったのを覚えています。案内してくれた方は申し訳なさそうにしていましたが、こちらは決めていました。
窓があると、季節も時刻も外から入ってきます。それが心地よい店もあります。ただ、こちらがやりたかったのは逆でした。何時に来ても同じ暗さで、帰るときだけ現実に戻る。そういう箱です。
だから明かりは増やしませんでした。ひとつだけ点けて、あとは客席が勝手に暗くなるのに任せています。名前を「常夜」にしたのは、そのあとです。
02Floor Plan
← 図は横に動かせます →
直線のカウンターは、端と端が正面から向き合ってしまいます。弧にすると視線がすこしずつ外れて、隣に人がいても、ひとりでいられる。開店から七年目に、十席を八席へ引き直しました。
図の番号にふれると、その席のことが出ます。
八席の弧。入口から遠くなるほど、静かになるように配置しています。
03The Master
グラスを磨く係から始めました。あの三年でいちばん覚えたのは技術ではなく、人が黙りたい瞬間の見分け方でした。
十九歳。最初の三年はグラスと氷だけ。カウンターの中には入れてもらえませんでした。
はじめて客前に立った店。名前より先に、飲む速さを覚えろと言われました。
蒸留所を十二か所。いちばん覚えているのは酒ではなく、あの土地の暗さでした。
地下で、窓がない。それが決め手でした。灯りは最初からひとつだけです。
カウンターを弧に引き直しました。売上は落ちて、店は良くなりました。
04Light & Sound
ろうそくに近い色の電球を使っています。白い光の下では、同じ酒がずっと薄く見える。色は味の一部だと思っています。
レコードを一枚ずつかけます。音量は「話し声が消えないところ」で止める。曲名を聞かれたら、盤ごとお見せします。
店内は禁煙です。香りの弱い一杯ほど、煙に負けてしまうので。外に灰皿を置いています。