この店をはじめる前は、三年ほど庭師の見習いをしていました。花を覚えるより先に、枝を落とす順番を教わりました。どこで切ると木が弱るか、どこで切ると次の年に伸びるか。いま思えば、あれがいちばんの修業でした。
独立して花屋をやろうと決めたとき、周りにはずいぶん止められました。花束というのはふつう、まるく整えて、正面を作るものです。枝を主役にすると、まるくなりません。正面もはっきりしません。売りにくいよ、と言われました。
それでも枝を選んだのは、家に持って帰ったあとのことを考えたからです。まるい花束は、置いた瞬間がいちばんきれいです。枝の束は、置いてから一週間かけて、少しずつ形が変わっていきます。葉が落ちて、向きが変わって、それでもまだ見られる。長く一緒にいられるのは、たぶんそちらのほうです。
いまは市場から戻る朝の時間がいちばん好きです。台の上に枝を並べて、どれとどれが並ぶと気持ちがいいかを、しばらく見ています。その日の答えが、その日の花束になります。
花の名前を覚えてくださらなくて構いません。「玄関に置きたい」「引っ越しの祝いに」——それだけ言っていただければ、こちらで組みます。よければ、いちど覗いてみてください。
店主・桐生 帆乃香