小森 郁
窯と生地
四時半に店へ入り、その日ぶんの粉をひくところから始めます。窯に薪をくべるのも、頃合いを見てひくのもこの人です。
床の傾いた三坪を借りて、パンを焼きはじめて八年目です。駅から歩いて十二分のところにあります。
つくっているのはふたりです。
週に四日だけ開けて、残りの三日は仕込みと窯の手入れにあてています。
はじめて借りた三坪は、床が奥に向かって傾いていました。作業台の脚に紙をはさんで水平を出すところから、この店は始まっています。前の職場は製材所で、木の乾き具合を見るのが仕事でした。
粉を触りはじめて驚いたのは、木とよく似ていたことです。その日の湿りで手ざわりが変わり、無理に押すと二度と戻らない。だから配合表は、いつまでも下書きのつもりで書いています。
三年目に石窯を組み直しました。前の窯は温度が上がりすぎて、皮が厚くなってしまう。煉瓦を積み替えて、薪をひいたあとの熱でゆっくり焼けるようにしました。焼き上がりが遅くなったぶん、開店を八時にずらしています。
六年目に石臼を入れて、全粒を自分で挽くようになりました。挽きたては香りが強すぎるので、翌日までに使い切る量しか挽きません。数を増やせない理由は、だいたいこういうところにあります。
コムギノ舎 小森 郁
小森 郁
窯と生地
四時半に店へ入り、その日ぶんの粉をひくところから始めます。窯に薪をくべるのも、頃合いを見てひくのもこの人です。
中根 千尋
仕込みと菓子
配合表はぜんぶ手書きです。数字より、指に残る感触のほうを先に信じます。甘いものは、この人がひとりで組み立てています。
北海道産と九州産を、季節で二対一から一対一のあいだで混ぜています。夏は蛋白の高いほうを増やし、冬は減らします。
そのうち二割を店の石臼で挽いて、全粒として戻します。挽きたてはよく膨らみますが、香りが立ちすぎる日もあるので、そのときは前日ぶんと半分ずつにします。